日本の種子(たね)を守る会初等部タネの話をしようVol.5(2020年9月4日)パネリスト木村-黒田純子先生コメント
農薬について伝えたいこと
枝元さん、室津さんとお話しできて、とても楽しい一時でした。私からは、農薬について、現在わかっていることをお話ししたいと思います。
私は、元々生き物がだーい好きで、基礎生物学を学んだ後、医学系の公立研究所で40年近く、実験研究をしてきました。そのなかで、人間がこの60年ぐらいに膨大に作り出してきた農薬など合成化学物質のヒトへの影響について、研究をしてきました。
そうしましたら、現在の農薬やプラスチックなどの合成化学物質は危険なものが多く、安全基準もいい加減であることがわかってきたんです。今日は有害な合成化学物質のなかでも農薬中心にお話しできたらと思います。
なかでも農薬は、胎児や成長期への子どもへの悪影響が、科学研究でも大変懸念されていて、世界の公的機関では、子どもが農薬をなるべく取り込まないよう、減らすようにと警告しています。それを皆さんにお伝えしたいと思っています。
ただ、私自身が共稼ぎで、子育てをしてきた経験から、無農薬、有機野菜しか使わない、食べないような暮らしは、経済的にも時間的にも負担が多すぎ、ストレス多すぎで実行不可能なことはよくわかります。仕事をされていないお母さん方も、かえってとても大変なことが多いと思います。食事作りにしても、掃除にしても家事を完璧にしようと思ったら、無茶苦茶大変です。それで必要以上に神経質になって、ゆったりとした気分を忘れてしまったら、自分自身も子どもや家族も、楽しい生活ができません。いろいろ問題の多い社会であることは確かですが、せっかく生まれてきた人生ですから楽しみたいとも思っています。ですから、やれることから、できることから一緒に考えて、やっていけたらいいなと思っています。
まず、国産の野菜は、輸入食品よりも安全と思われていますが、実は日本は農薬使用大国であることが、国際的な機関で調べられています。
OECD(経済協力開発機構)という国際機関で、世界の主要な国々の農地単位面積当たりの農薬使用量を公開しているんですが、日本は韓国と一位、二位を争っています。つまり農薬を多量に使用しているんです。OECDからはもっと農薬の使用量を減らせと勧告も受けたことがあります。どこの国でも農産物中の農薬残留基準が決められているのですが、これがまた日本ではゆるゆるです。
もちろん、害虫や雑草、病原菌は昔から農業にとって、被害も大きく大変なことでした。それに対して何もやらないわけにはいかないかもしれませんが、現在使われている農薬やその基準が安全なのかどうかが問題になると思います。
農薬は、農の薬と書きますが、薬ではありません。何らかの生物を殺す殺生物剤で、基本的に毒物なので扱いに注意が必要です。
そして、生物は、細菌類、単細胞生物から人間を含む高等動物まで、長い地球の歴史のなかで繋がって進化してきており、共通の生理活性物質を使っています。たとえば、人間の脳で、神経伝達を担っている神経伝達物質は、ほとんどが細菌類も共通なのです。
グルタミン酸、グリシン、セロトニン、アセチルコリンなど皆さんも聞いたことのあるこれらの神経伝達物質は、細菌から昆虫、人間に至るまで全く共通で、重要な機能を持っています。神経系を持たない細菌や下等動物では、これらの物質を細胞同士の情報交換に使っています。
これは私自身、農薬の毒性を勉強していて知ったことでびっくりしました。
まず、人間と昆虫はかなり似ていると知って驚き、さらに細菌類、私たちの健康に重要な腸内細菌や皮膚を守ってくれている常在細菌とも同じ生理活性物質を使っていることに驚きました。
細胞同士の情報交換には、このような共通の生理活性物質が使われますが、受け取る側にはそれぞれの受容体があり、この受容体はそれぞれの生物によって少しずつ異なるのですが、もとの物質が同じなので、受容体も似ているんですね。
それで、それぞれの農薬というのは、標的となる害虫や雑草、病原菌だけでなく、人間や他の生態系にも悪影響を及ぼすことがあるのです。
ですので、害虫、雑草、病原菌などだけに効果を及ぼす農薬はほぼないといっても良いと思います。
地球生態系は、様々な動植物、細菌類で構成されていて、私たち人間が知らないところで、共存しているのだと思います。ところが、人間がこの60年間あまりに、膨大な種類の合成化学物質を多量生産してきたために、乱されてきています。
とくに最近の研究で、私たちの目には見えない、細菌類が重要な働きをしていることが、地球レベルでも、私達の身体でもわかってきています。細菌というと、きたないイメージがあるかもしれませんが、私たち人間は共生している細菌類に助けられて生きているんです。
腸内細菌で善玉菌といわれている乳酸菌などが大事なだけでなく、悪玉菌もほどほどに存在すると、私たちの免疫系がちゃんと働いていきます。そのバランスが崩れると、免疫異常が起こってアレルギーになったり、がんになったり、脳にも影響を及ぼすことがわかってきています。
その腸内細菌のバランスを崩す人工的な化学物質は、抗菌剤、除菌剤、農薬などがあります。
腸内細菌が大事だということはよく言われますが、皮膚に共存している共生細菌も大事で、皮膚をあまりに殺菌してしまうと、肌荒れを起こしたり、アトピーなどをひどくすることがわかっています。
新型コロナ感染騒動で、やたら消毒といわれますが、過剰な消毒や殺菌、除菌は、私たちの大事な共生細菌を殺してしまい、かえって大事な免疫系にダメージが起こってしまうので、適切な消毒が必要です。
農薬の問題に戻ります。
合成農薬が作られ始めたのは、約60年ほど前になりますが、農薬は多量に使用された後で、人間への毒性や生態系へのダメージが明らかになって、使用禁止になったものがたくさんあります。そのような経緯から、多種類の毒性試験が実施されるようになり、現在では急性毒性については、かなり調べられてきました。
しかし、少量でも長期に取り込むと、これまで知らなかったような悪影響が出てくることが、科学研究でわかってきています。
そのような新しい毒性については、現在の農薬の毒性試験で確かめられていないんです。
農薬の毒性試験は、多種類実施されて、その結果から安全基準値が決められるんですが、毒性試験には、いろいろ不備があるんです。
まず環境ホルモン作用については、調べられていません。環境ホルモンとは、環境中に存在する化学物質のうち、生体にホルモンと同じような作用を起こしたり、逆にホルモン作用を阻害したりするものです。
今から20年ほど前に、世界中でこれが大問題となり、連日ニュースに出ましたが、残念なことに日本では空騒ぎであったという風潮が流れて、現在なんら規制されていませんが、科学研究ではその影響が明らかになっています。
現在使用されている農薬やプラスチック原料などには、ホルモンの作用を乱す、攪乱するこの環境ホルモン物質がたくさんあって、とくに発達期の子ども達には影響が大きいので、EUやアメリカなどでは実際に規制がはじまっています。ホルモンは、ごく少量で効果が出るので、環境ホルモン作用のある合成化学物質も少量でも影響が出るので、これは本当に大きい問題だと思っていて、日本でも規制されなければならないことです。
次に、農薬による発達期の脳への影響も適切な試験が実施されていません。人間の脳が発達するには、ホルモンや神経伝達物質など膨大な種類の生理的な化学物質が、きちんと働くことが必要ですが、環境ホルモン作用のある有害化学物質や農薬が、脳の発達を阻害することが多くの科学研究で報告されています。
もちろん全てのことがわかったわけではなく、まだ研究は途中なのですが、全部わかるまで、何の規制もしないと、取り返しのつかないことになってしまいます。
地球温暖化も今深刻な事態ですが、地球温暖化対策には予防原則がとられています。(それでも大変な事態になっているのが現状ですが)
予防原則とは、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のことです。
農薬についてもある程度危険性がわかってきたものについては、この予防原則を適用すべきと、考えています。
他にも多種類の農薬による複合毒性や農薬製剤に含まれる添加剤の問題があります。
私たちは多種類の農薬を微量ながら日常的に取り込んでいますが、その複合影響についてはほとんど調べられていません。多種類の農薬を同時に作用させると毒性が、予想外に高いことがありますが、その研究はほとんどやられていません。まさに、人体実験をしているようなものです。
さらに農薬の毒性試験は、原体でしかやらず、実際に使われる農薬製剤の毒性はほとんど調べられていません。
実際に使用される農薬は、殺虫剤や除草剤、殺菌剤などに効果のある原体、例えばグリホサートやネオニコチノイドなどに、界面活性剤など多種類の添加剤が入れられて、商品名ラウンドアップなどの名前が付けられ、売られて使用されています。この実際に使われている農薬製剤の毒性が、もとの農薬原体よりも100倍も高いことがあると多数の研究で報告されています。100倍も毒性が違ったら、安全基準は当然異なるのですが、現状ではそれが無視されているんです。
ですから、農薬は国が毒性試験を多種類やって安全基準を決めているから安全なのだといわれるのですが、現在の試験法や決め方では不十分なんです。
農薬は種類によっていろいろありますが、今問題になっている農薬には殺虫剤ネオニコチノイド、除草剤グリホサートがあります。
殺虫剤ネオニコチノイドは、たばこの成分ニコチンによく似ています。神経伝達物質アセチルコリンの受容体に結合して、様々な毒性をもちます。アセチルコリンとその受容体は、昆虫、人間、さらにほとんどの生物で大変重要な働きをしているので、影響がとても大きいのです。まず世界中で起こったハチの大量死の主原因であることがわかっています。また日本ではコウノトリやトキの繁殖がうまくいかなかったときに、ネオニコチノイドの使用を止めたところ、うまくいくようになったそうです。人間では子どもの脳への影響が心配されています。
除草剤グリホサートは、植物だけに特別に効果が出るので、ヒトには安全と宣伝されましたが、腸内細菌や土壌細菌にダメージを及ぼすことがわかっています。また神経伝達物質のグルタミン酸やグリシンに似ているので、神経系にも影響を及ぼします。遺伝子DNAにも影響を及ぼすことがわかってきています。アメリカでは、グリホサートをたくさん使ったために、がんを起こしたとして数万件も裁判が起こっていて、3件で患者が勝って、企業が賠償金を払うように命じられています。この除草剤は、農地だけでなく、学校の校庭や駐車場、家庭用の除草剤としてたくさん使用されているのも問題です。
また、ネオニコとグリホサートだけが問題なのではなく、有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤などなど、他にも毒性が問題になるものは多いです。有機リン系はヒトへの神経毒性が問題となり、世界で使用が規制されてきています。日本でも使用量が減っているのですが、実は殺虫剤のなかではいまだに使用量が多いのです。
ピレスロイド系殺虫剤は、除虫菊をもとにした合成殺虫剤ですが、これも子どもの脳への影響が懸念されています。家庭用殺虫剤ではこのピレスロイド系が多く使用されています。
日本の子ども223人の尿を調べた2016年の論文では、有機リン、ピレスロイド系が100%、ネオニコチノイド系が約80%も検出されました。低い量ですが、日常的に取り込んでいるので、その影響が心配です。
このように農薬はいろいろ問題があります。
すぐに無農薬、有機農業に全てを変えることは難しいですが、少しずつ変わっていけたらと思います。
また今問題となっている新型コロナ後の世界は、持続可能な経済を基盤にしたグリーンリカバリー、レイチェルカーソンが言っていた 別の道を目指すことが必要じゃないかと思っています。
エネルギー問題だけでなく、石油原料などを元にした合成農薬や合成肥料の多量使用は、持続可能な地球環境を維持できません。私たちはもっと自然に沿った、環境に悪影響を及ぼさないような生活をしていくことが、自分たち人間にとっても、地球にとっても大事だろうと思っています。
世界では、有機農業、農薬や肥料の削減を目指しています。日本もこれに力を入れねばならないと思っています。
対談で話題となったコメント
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売っている普通の野菜は、洗ったら農薬は落ちるだろうか?
最近の農薬は、ネオニコチノイド、グリホサートなど水に溶けやすく、農産物の内部まで浸透するので、残念ながら洗っても落ちません。DDTとか有機塩素系農薬や有機リン系農薬は、油には溶けやすいですが、水には溶けないので、農産物の外側だけが汚染されていましたので、キャベツの外側の葉を除いたり、洗ったりすれば大分落ちたのですが、現在の農薬は、それができないところが問題です。
室津さんが実践されている重曹と水で洗うのは、油に溶けやすい有機リン系などの農薬については、とても効果があることが研究でも明らかになっています。重曹は毒性がないので、掃除にもこのような使い方もお勧めしますが、水溶性、浸透性のネオニコチノイドやグリホサートなどを落とせないことが残念なことです。
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日常的に問題になる食材と気をつけることは?
米や日本茶については、ネオニコチノイド系農薬汚染が問題。高率に汚染が確認されています。
2018年に発表された茶葉の論文では、日本産の茶葉100%にネオニコチノイドが検出されています。
米も高率にネオニコチノイドが検出されています。
安全基準値内なので、大丈夫とされていますが、前にお話ししたように安全基準の決め方には問題があるので、できるだけ、無農薬や有機食材をおすすめします。
大豆製品や小麦粉では、除草剤グリホサート汚染が問題です。グリホサートは元々、遺伝子組み換え用の除草剤ですが、国内では除草剤として使われてきました。国内産では、これまで遺伝子組換え作物はほとんど作られていませんでしたが、大豆など収穫した後に、除草剤グリホサートを撒いて早く枯らし、収穫しやすいようにするプレハーベストという使用法が国内でも行われて、残留していることもあります。
輸入製品では、小麦や大豆など組換え遺伝子農産物が国内に入ってきています。遺伝子組換え食品は、遺伝子組換え自体が問題になるだけでなく、それと一緒に使われている除草剤グリホサートの残留が問題です。
農民連食品分析センターの調査では、輸入小麦類でグリホサートが検出される例は多いです。とくに給食用パン14種を調べたところ、12種でグリホサートが検出されたと報告されています。グリホサートに関しては、輸入産で検出率が高く、国内産の方が安全そうです。
大豆製品は、味噌や納豆など日本人がよく食べるものが多いのですが、食品に含まれているものは全て表示されているわけではありません。遺伝子組換え大豆が使われたとしても、全原材料中上位3位まで 、かつ5パーセント以上に表示義務があるだけで、製品も限られていて、なんと醤油や油には表示義務がありません。ですから、遺伝子組換え大豆が使われていても私たちにはわからないという問題があるんです。
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輸入バナナについて
輸入バナナの残留農薬について、東京都健康安全研究センターが調べています。2015年から2019年までの報告書を見ると、エクアドル産、フィリピン産の輸入バナナを調べると、皮を含んだ検査では、ほとんどのバナナに有機リン系殺虫剤や防カビ剤が検出されます。果肉は汚染が少ないですが、有機リン系、防カビ剤、ネオニコチノイドが検出された例もありますが、全て安全基準値内です(安全基準値の決め方に問題はありますが)。
バナナを茎から1センチを切ると残留した農薬が減るというのは、増田清氏著“家庭でできる「農薬・食品添加物」の落とし方”に紹介されていました。
また輸入バナナは、ドールなど海外の大企業が、大規模なプランテーションを行なって栽培されたものが多く、現地の人が農薬被害を受けているという情報もあります。このことを考えると、できるだけフェアトレードや有機バナナをお勧めしたいと思います。
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減農薬、特別栽培物は安全か?
このような表示で販売されている農産物があり、農薬使用が減らされているのは良いことではあるのですが、何の農薬が使用されているのかによって、安全であるか否かは難しいところです。ネオニコチノイド系殺虫剤は、昆虫毒性が極めて高いために、多用されていますが、これまでの農薬よりも殺虫効果が極めて高いため、減農薬、特別栽培物とされることがあります。しかし、ネオニコチノイドは少しの量でも動物実験で、脳、免疫系、生殖系への影響などが報告されています。また水に溶けやすく、野菜の中にネオニコは入ってしまうので、洗っても落ちないのです。何の農薬がどれだけ減らされているのか、できたら調べて確認してください。
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今、私たちにできることは何か?
農薬については、できるだけ無農薬・有機栽培の農産物をおすすめします。ただ、全部を無農薬・有機栽培のものにするのは、難しいと思いますので、できるところでやっていったらいかがでしょう。
家でも家庭用殺虫剤や除草剤はなるべく使わないようにしましょう。
また新型コロナ騒ぎで、消毒が皆さんの関心の的になっていて、薬局やスーパーでもたくさん消毒剤を売っていますが、使い過ぎや適切でない消毒薬には注意しましょう。使いすぎると、私たちの免疫機能がかえって衰えてしまいます。少し前に、うがい薬が問題になりましたが、殺菌効果の高いうがい薬は、喉の粘膜を痛めてしまいます。
また、個人でできることだけでなく、友だち仲間とどう思うとか話してみたり、自分の所属する生協や、学校のPTAでも話題にしてみたらどうでしょう。少しずつでも、仲間といろんな話をして、子ども達の将来に繋がることができたらと思っています。